誤解に基づく放射性炭素による年代測定批判

(「放射性元素を用いた年代測定、炭素14法について」を改題)[2000/06/20]

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放射性炭素による年代測定を批判する創造論者は無知である。放射性炭素による年代測定はほとんどの化石の年齢の計算には使われていないことや、大気中の炭素14の非平衡状態の理由がわかっていることについて、創造論者は理解していない。創造論者による批判は誤解に基づくものであり、的外れである。

放射性元素は時間が経つにつれて壊変し、別の元素に変わります。変化する前の元素と、変化した後の元素の量を測定することで年代が推定できます。変化した元素の量が多ければ多いほど、より年代が経っているというわけです。20世紀の初めごろには、さまざまな証拠から地球の年齢は1万年どころではないとわかっていましたが、放射性元素を用いることで岩石の年齢のより正確な具体的な数字がわかるようになったのです。

現在はさまざまな放射性元素による年代測定が行われており、地球の年齢は46億年だと推定されています。創造「科学」者は地球の年齢は6000年であると推定しているので、当然、放射性元素を用いた年代測定には問題があると主張します。しかし、たいていの場合、創造「科学」者は、放射年代測定法についてあまりよく知らないので、その反論は的外れです。「相手の主張を誤解・曲解した上で否定する」好例です。創造科学を支持するWebサイトではどう書かれているでしょうか。

恐らくご存知だと思いますが、化石の年齢の計算方法は有名なCarbon-14という方法で昔は計算されていました。(創造論を再評価する 地球の歴史が一万年以上もないと見られる証拠 より)

「恐らくご存知だと思いますが」って、存じませんよ。炭素14(Carbon-14)の半減期は約5700年なので、炭素14による年代測定が適用できるのはせいぜい数万年であると思っていました。炭素14法は主に考古学的な年代測定に使用されるものであって、古生物学の多くの分野には利用できません。岩石の年代測定には、ウランなどの半減期のもっと長い放射性同位体を使用します。このWebサイトの作者は、化石の年齢は炭素14法で昔は計算されていたウソを述べたあと、炭素14法は比較的短い期間が限度であるから無意味だと言っています。進化論者の主張を誤解・曲解した上で否定していますね。

また、大気中のカーボン14の量は太陽からの宇宙線の線量によっても増減します。ですからカーボン14測定法が大気や海水などのエコロジーシステム中のC14の量が常に一定だったという前提が正確性の保持のために必要ですが、そういう保証は全く無いということを知っている必要があります。(創造論を再評価する 地球の歴史が一万年以上もないと見られる証拠 より)

炭素14の生成量が増減するのは後述するように事実です。しかし、炭素14の量が常に一定であるという前提が正確性の保持のために必要というのはウソです。炭素14法とは独立した別の方法、例えば、年輪を調べて年代を決定する方法を利用して、過去の大気中の炭素14の量を推測し、炭素14法は補正されています。年輪以外にも、湖底の堆積物やサンゴ礁を利用する方法もあります。炭素14の量が常に一定であるという前提は使用されていません。より誤差を減らすための努力を続けている科学者たちがいること、そしてそういう努力に全く言及せずに自分の信仰とそぐわない科学上の手法をおとしめる人々もいることこそ、知っている必要があるのです。

Webサイトではなく本ではどうでしょうか。久保有政氏による「聖書から生まれた先端科学 創造論(クリエーションサイエンス)の世界」には、大気中の炭素14は地球が若いことを示すという一節があります。

炭素十四は、宇宙線(宇宙からの放射線)−高エネルギーの中性子が、大気中の窒素十四にぶつかることによって生成される。宇宙から飛んでくる中性子の量は、時代を通じてほぼ一定と考えられるので、大気中に生成される炭素十四の増加速度は、ほぼ一定である。(中略)

大気中の炭素十四は、窒素十四に中性子が当たることによって徐々に増え、一方では放射性崩壊によって減っていくので、やがてある程度たまって、もうそれ以上増えない平衡状態に達する。科学者は、この平衡状態に約「三万年」で達することを知っている。進化論者は、地球の年齢を約四五億年と考えているから、このことを最初に考えついた人は、

「大気中の炭素十四は、とっくの昔にこの平衡状態に達しているはずだ」

と考えた。ところが実際に調べてみると、まだ平衡状態に達していなかった。現在の大気中に存在する炭素十四の量から算定した結果は、地球が誕生してからまだ一万年くらいしかたっていないことを示していたのである。(久保有政 1999 P168)

大気中の炭素14が平衡状態に達していないことは事実です。この事実について、科学者はどういう説明をしているのでしょうか?久保氏はなんの根拠も示さずに

進化論者も、この算定結果について知っている。そして頭をひねっている。(久保有政 1999 P170)

とだけ書いています。大気中の炭素14が平衡に達していない理由について、進化論者(つまり科学者)がなんの説明も持っていないかのように書かれていますが、それは事実と違います。久保氏は自分が知らないことは、進化論者も知らないとみなしているようです。他者(特に専門家)の過小評価がここで見られます。

現在、科学者は、大気中の炭素14の非平衡の原因について、地球の歴史が短いせいではなく、宇宙線による生成率が一定でないこと、及び深海などの大気以外の炭素の貯蔵源との間の炭素交換に由来すると考えています。

地球や太陽の磁場が変動していることは実際に観測できます。太陽の磁場が変動すれば、太陽から飛んでくる宇宙線の量は変わるでしょう。久保氏の主張とは逆に「宇宙から飛んでくる中性子の量は、時代を通じてほぼ一定である」とは考えられていません。深海にも炭素は蓄えられていますが、宇宙線の影響を受けないので、深海中の炭素14の比率は大気中の炭素14の比率よりも小さくなります。大気と深海は炭素を交換していますが、その速度は当時の気候に影響を受けるでしょう。

久保氏は、大気中の炭素14の非平衡についての一般的な見解について述べるべきでした。単に炭素14の非平衡が地球が若いことでも説明しうると主張するのではなく、まさに炭素14の非平衡が地球が若い証拠であると主張するのであれば、他の説明を否定する必要があります。そうする代わりに、久保氏は進化論者があたかも炭素14の非平衡についてなんの説明をもっていないかのように書いたのです。これが誠実な態度と言えるでしょうか。

創造論者の論法は誠実とはほど遠いところにあります。議論に必要な科学的知識を持ち合わせていないがゆえでしょうが、論敵の主張を過度に単純化し(進化論者はなんの保証もなく炭素14の量が一定という前提を使用している、など)、その上で否定しています。擬似科学に共通する論法です。


参考文献

松井孝典他 1996.地球惑星科学入門 岩波書店
久保有政 1999.聖書から生まれた先端科学 創造論(クリエーションサイエンス)の世界 徳間書店
Goslar,Tomasz et al.,Variations of Younger Dryas atmospheric radiocarbon explicable without ocean circulation changes, Nature VOL.403,P877-880 Feb.2000
Kitagawa,H and van der Plicht,J. Atmospheric radiocarbon calibration to 45000 yr B.P.:late glacial fluctuations and cosmogenic isotope production, Science Vol.279,P1187-1190 Feb.1998

Webサイト
創造論を再評価する http://members.xoom.com/norih/earth.htm

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2000/3/6
2004/8/3最終改訂