血液型性格判断は、遺伝学の問題でもある


性格は環境と複数の遺伝要因が関与している複雑な形質であり、遺伝学の対象となりうる。複雑な形質には通常多くの遺伝子が関与しており、ある一遺伝子が遺伝要因の二分の一を占めるといったケースは例外的である。能見正比古氏による「血液型でわかるのは性格のうちの四分の一、先天的な気質の半分である」という主張は途方もない主張であり、その主張を裏付けるだけの十分な根拠は示されていない。
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血液型性格判断批判は、主に心理学的な面からなされており、そのいくつかはインターネット上で閲覧できます。また、非合理主義批判の観点から書かれた本もあります。ですが、遺伝学的見地から見た血液型人間学批判はあまりないようです。血液型人間学は、心理学の問題でもありますが、遺伝学の問題でもあると、私は考えます。なぜなら、遺伝学とは遺伝子型と形質の関係についての学問であり、血液型性格判断は、ABO式血液型を決定する遺伝子と性格の関係についての主張だからです。遺伝学的な見地から、血液型性格判断を批判する価値はあるものと私は考えました。

性格が環境の影響を受けることは確かですが、遺伝要因の影響を受けることも同じくらい確かです(Bouchard 1994)。人々はそれぞれ性格が異なっており、その差異の一部分は遺伝的な差異に由来するものです。いったいどの遺伝子が、どれだけ性格という複雑な形質に寄与しているかは、今後の遺伝学の重要な課題の一つでしょう。

複雑な形質(complex traits)とは、単純なメンデル遺伝形式を示さない、言い換えれば、一つの遺伝子座によっては決定されない形質のことを言います。例えば、身長は複雑な形質です。親が背が高ければ子も背が高い傾向、あるいは、一卵性双生児はよく似た背の高さを示す傾向にあることなどにより、身長に遺伝的要因が関与していることは明らかです。しかし、身長を決定する一つの遺伝子というものがあるわけではなく、複数の遺伝子と環境要因が複雑に関与しあって身長という形質がつくられるのです。

単純なメンデル遺伝する稀な疾患や、中毒などの環境要因に起因する疾患を除けば、多くの疾患は複雑な形質と言えます。例えば、糖尿病、高血圧、クローン病、慢性関節リウマチといった疾患は、複雑な形質だとみなされています。ヒトゲノムに多数の遺伝マーカーを設計できるようになった現在、これらの複雑な形質と遺伝子型の関係について、精力的な研究がなされています。これらの研究からわかったことは、複雑な形質に関与する遺伝子を発見することは非常に難しいということです。なぜならば、稀な例外を除けば、多くの遺伝子が形質に関与しているため、ある一つの遺伝子の寄与は小さくなるからです。

さて、性格は複雑な形質であり、遺伝的要因が関与しているのですから、ABO式血液型が関与していてもおかしくはないと、肯定派は言うでしょう。しかし、どの程度強く関与すると、肯定派は言っているのでしょうか。例えば、能見正比古氏は血液型以外の個性を野菜の種類に、血液型を料理法に喩えています。

では、この野菜の種類、つまり血液型による共通性以外の個性とは何か、という疑問が出る。だが、それが何によって分けられるかは、まだ解明できない問題だ。ABO式以外の血液型も多少は関係しているのかもしれない。私は、よく、こう申し上げる。
「血液型でわかるのは性格のうちの四分の一ですよ」
人間の性格は、先天的気質と後天的な形成の両者から成る。血液型が関連するのは、先天的な気質の部分だから、まず、半分。その気質は、野菜の個性と、血液型による共通性が、また半々と見て、合計四分の一という大まかな計算である。
「たった四分の一しか判らないんじゃ、つまらないですね」
という人がある。冗談ではない。人間科学のレベルはまだ錬金術レベルで、未知の部分がほとんどと言っていい。人間の心の動きが、もし四分の一でも判ったら、大へんなことになるのである。
(能見正比古、血液型人間学 P67)

確かに、性格の四分の一がABO式血液型で判るのであれば、大へんなことになります。正比古氏の主張によれば、性格の差異に寄与する遺伝的要因の二分の一がABO式血液型であることになります。性格は、糖尿病や慢性関節リウマチといった形質と比較して、より複雑な形質と言えます。ヒトゲノムにある遺伝子はざっと数万個。そのうちのたった一つの遺伝子(およびそのごく近傍の遺伝子)が、性格というきわめて複雑であると考えられる形質に関して、遺伝的要因の半分も寄与している!これは途方もない主張であって、このような主張を行うにはきわめて強い証拠が要求されます。しかし、遺伝学者の検討に耐えられるだけの根拠は示されていません。


参考文献

能見正比古 血液型人間学 サンケイドラマブックス
草野直樹 「血液型性格判断」の虚実 かもがわ出版
Risch NJ. Searching for genetic determinants in the new millennium. Nature. 405(6788):847-56, 2000
Bouchard TJ Jr. Genes, environment, and personality. Science. 264(5166):1700-1, 1994
帯広畜産大学心理学研究室 http://www.obihiro.ac.jp/~psychology/index.html

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2002/10/16