人口増加率から地球の年齢はわかるか?

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創造論者は現代の人口増加率を過去に外挿して地球の年齢を求めるが、人口増加率は一定ではないので正確な値が出ない。歴史学の成果と若い地球の創造論者の主張する地球の年齢は矛盾する。

創造科学によると、今から約4500年前に大規模な洪水が起こり、生き残った人間はノアと三人の息子、そしてその妻たちの計8人だったそうです。さて、8人から4500年かけて現在の50億人もの人口に増えることは可能でしょうか?答えは可能です。理想的な環境では人口は指数的に増加するので、人口だけを問題にするならば、若い地球の年齢は現在の人口とは矛盾しません。ここでの私の主張は「たったの8人から50億人に増えるには長い時間が必要だ」ではありません。私の主張は二つです。一つは現代の人口増加率を過去に外挿する方法では地球の年齢は求められないこと、もう一つは創造論者の主張は歴史学と矛盾することです。

創造論者は少数の人数から(地質学的に)短い時間で現在の人口になることが可能であると主張するにとどまらず、もし進化論者の言うことが正しければとっくの昔に地球は人でいっぱいになっていたはずだと主張します。

地球の人口の急速な増加は深刻な問題になりつつありますが、人口の計算を通してでも、地球の年が若いという一つの証明ができると思います。もし、人間がこの地球に何万年という歳月実在していたとしたら、何故以前に人口過大の問題が起こっていたはずなのにそれが起こらなかったということです。ある研究によると、世界人口は年間2%の割合で増えていると言いますが、どんなに低く見積もっても0.5%(病気、戦争などで死ぬ人達の計算を含め)以下になることはありません。(中略)

もし、進化論説で0.5%の割合で考えると、今の世界人口は最低30兆人になります。そういう人口過密を示唆する証拠(化石、人骨、などの発掘)はこれまでのところ何一つありません。(創造論を再評価する 地球の歴史が一万年以上もないと見られる証拠)

進化論を否定したいあまりにこのような根拠薄弱な論法を持ち出さねばならない創造論者に同情します。人口増加率がどんなに低く見積もっても0.5%以下になることはないというのは誤りです。生物学的にも歴史学的にもです。

環境が変われば個体数の増加率が変化することはさまざまな種で確認されています。気候などの外的要因が変化しなくても、個体数の増加は餌の不足や天敵の増加、疫病の蔓延といった環境の変化をもたらします。人口がどんどん増えていけば、30兆人になるずっと前に人口増加率が0.5%以下になることなど、ちょっと考えればわかりそうですが。

歴史的にも人口増加率が常に0.5%以上であったという事実はありません。飢饉や疫病で人口が激減することもまれではありませんでした。人口が増加し続けるようになったのは、安定した食料の供給や医学の進歩のおかげです。

創造論者は、放射性同位体の崩壊速度といった物理の基本法則ですら過去に一定であったことを疑うのに対し、人口増加率は自説に都合のよいので一定であったとみなします。こういったダブルスタンダードも疑似科学の特徴と言ってよいでしょう。科学者が崩壊速度が過去に一定であったとみなすのは、温度や圧力に影響されないという実験や、もし一定でなければ説明しがたい測定結果があるからです。人口増加率が一定でないとみなすのは、進化論に不利だからではなくて、理論的にも観測からも明らかだからです。

創造「科学」の主張と歴史学が矛盾することも指摘しておきましょう。歴史学者は6000年以上の過去も扱いますが、これは明らかに地球の年齢は6000年であるという考えと矛盾します。過去6000年以内の歴史に限ったとしても、創造論者の予想する過去の人口は少なすぎて歴史の遺物を説明できません。懐疑主義者のシャーマーは次のような指摘を行っています。

彼らの計算法では、紀元前二六〇〇年の世界の全人口は六〇〇人前後となる。紀元前二六〇〇年といえば、エジプト、メソポタミア、インダス川流域、そして中国で文明が隆盛をきわめていたことは、ほぼ確実にわかっている。エジプトに全人口の六分の一を気前よく分配すると、ほかのあらゆる歴史的な建築物はいうまでもなく、ピラミッドは一〇〇人で建設されたことになる。(シャーマー 1999 P234)

実は上記の計算はノアの洪水を無視していますので、創造「科学」者のいうように4500年前に世界規模の大洪水が起こったとするならば事態はより悪化します(創造論者にとって)。どうやら、あくまでも創造論を信じるのなら、歴史学も大きく書きかえる必要がありそうです。創造歴史学という疑似歴史学を作らなければいけませんね。信仰にそぐわないこれまでの歴史学など、彼らにとっては間違いとわかりきっていますので、ニセ歴史学をでっちあげることなど造作もないことでしょう。

創造「科学」は、進化論のみならず、地質学、地球惑星科学、宇宙論などの天文学、放射崩壊を扱う物理学、遺伝学などの生物学といった科学の諸分野だけでなく、歴史学もまた否定します。これほど広範囲の学問分野と矛盾する創造「科学」を支持するのは、単なる信仰に過ぎません。


参考文献

久保有政 1999.聖書から生まれた先端科学 創造論(クリエーションサイエンス)の世界 徳間書店
マイケル・シャーマー 1999.なぜ人はニセ科学を信じるのか 早川書房

Webサイト
創造論を再評価する http://members.xoom.com/norih/earth.htm

(補)
極少数(8人)の祖先から急速に(4500年)現在のヒトの集団ができたという仮説は、歴史学のみならず、集団遺伝学とも矛盾する。現在のヒトの集団の遺伝的多様性を説明できないからである。たまに遺伝学は進化を否定するという主張に出会うことがあるが、単に遺伝学も進化論も知らない人間のたわごとにすぎない。

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2000/03/10
2005/08/30最終改訂