紫藤ムサシ先生は、竹内久美子の本をほとんど全部読まれているだけあって、遺伝学にも精通されています。さすが、進化論・生物学を使って現代政治・社会を読み解くだけのことはありますね。先生は、「素人がどこで間違えるのか」という点について、きわめて正確に把握しておられます1)。
ミトコンドリア (細胞内小器官の一つ・細胞のエネルギーの元) ・DNAをたどることによって、「人類の祖先」は”15万年前”(20万年前と書く本もあります)のアフリカにいた 「ただ一人の女性 :ミトコンドリア・イヴ 」 に到達します(ミトコンドリアは女性にのみ伝わる)。
ですからこの”ただ一人の女性から”現在の 「63億人の人類」 に増えたわけです。
その当時(15万年前)、ホモ・サピエンスは1000人はいましたから、その内 ”500人が女性” であった計算になります。
よく考えてください! 「残りの ”499人の女性” はどうなってしまった」 のでしょうか!?
そうです。滅びてしまったのです!
男性の読者諸君も酸素呼吸をしていることからもわかるように、「ミトコンドリアは女性にのみ伝わる」というのは間違いですが、これは軽いジャブにすぎません。「イブ以外の女性が子孫を残さずに滅びてしまった」という誤解は広くみられます。イブ以外の女性も、彼女たちのミトコンドリアが伝わっていないだけで、ちゃんと子孫を残しました。ある女性が息子ばかりを産んだとすれば、その女性のミトコンドリアは途絶えますが、その息子たちが大いに繁殖に成功すれば、その女性の核DNAは集団内に広がります。この女性は「滅びてしまった」とは言えません。
つまり「人類は元々・少産系」なのです!
しかし、わずか”1/500の割合”でしかない「多産系の女性」によって現在の「63億人の人類」にまで発展・増加して来たのです!
「多産系(女性)・恐るべし!」
ですから「少子化を心配」するより、「人類の増加を心配」するべきなのです!
この文章には二つの間違いが含まれています。まず、「ミトコンドリア・イブが多産系である」というのは間違いです。イブは最低でも二人の娘を持ったということは確実です(一人の娘しか持っていなければ、その娘がイブである)が、必ずしも多産であったとは限りません。イブ以外の同時代の女性が少産であったとも限りません。すべての女性が2人しか子を産まないというモデルを仮定しても、ミトコンドリアの系統の数は減り(最初の一世代で、息子を二人持った母親、つまり全人口中の4分の1のミトコンドリアの系統が無くなる)、十分な時間が経てば一系統となります。むろん、過去の人の祖先の集団では、ある程度の繁殖成功の差はあったでしょう。しかし、イブ仮説は、ミトコンドリア・イブの系統のみが多産であったことを証明しているわけではありません。
二つ目の間違いは、「少子化を心配するより、人類の増加を心配するべき」という部分です。「人類は元々・少産系であり、1/500の割合でしかない多産系の女性が増加してきた」という部分が正しいと仮定したとしても、だったら、なぜ現在の先進国において人口が減っているのでしょうか。先生によれば、「少産系の女性が多い時代」と言えるとのことです。でもこれっておかしくないですか?どうして現在は少産系の女性が多いのでしょう?全人類はイブの子孫のはずなのに。
ムサシ先生は、意図的に素人が陥りやすい誤りを巧妙に混ぜることによって、科学がイデオロギーに利用される危険性を示しておられるのです。別のところでは、先生は、思想が科学の前にあることの危険を述べておられます2)。
まず、一番上に「思想・政治」があり、それに沿って科学理論が建てられるべきだと言う「本末転倒した」思考法があったからです!社会主義国は「国家の上に党があり」「国軍は無く、あるのは党の軍隊」にも通ずる思考法です。
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現代を席巻する思想「フェミニズム」も「ルイセンコ」そのままであり、「データ隠し・改竄・すり替え」は日常的に行われており、「目的のためには手段を選ばない」左翼の行動様式を踏襲しております。
まさしく、一番上に少子化対策は無駄であるという思想があって、それに沿って科学理論を立てている本末転倒した思考法を、高度なパロディによって先生は批判しているのです。現在の少子化の原因を、「安全であるから少子化になった」「単に人口が増えたから」「少産系の女性が多い時代だから」などと一貫性がないのも、先生はわざとやっているのですよ。