放射性同位体による年代測定法は信頼されており、さまざまな半減期をもつ元素に応用されています。若い地球の創造論者は、自説と食い違うこの年代測定法の信頼性をおとしめようとしてさまざまな批判を行います。誤解に基づいた的外れな批判はすでに指摘しました。ここでは、異常値をもとにした批判を取り上げましょう。創造論者は「放射性同位体による年代測定には異常値がしばしばみられ、信頼できない」と主張しますが、多くの場合、その異常値は説明可能なものです。二つほど例を挙げましょう。
(創造論者の主張)近代のイカのサンプルをもとに炭素14による年代測定を行ったところ、3000年前という実際より古い数字がでた。炭素14による年代測定は信頼できない。
イカではなく、アザラシや甲殻類のサンプルが異常値を示したと主張されるときもあります。創造論者は、炭素14法で実際より古い年代が出る例を示して、炭素14法で得られた6000年以上前の数字はみな異常値なのではないかと示唆します。創造論者の言い分にも一理あると信じ込む前に、異常値を示すサンプルがみな海洋生物であることに注意するべきです。
炭素14による年代測定の原理を思い出しましょう。炭素14は、上空の大気で宇宙線によって生成されます。一方、深海では炭素14の壊変が進みます。よって、海洋中の炭素14濃度は、同時代の大気中の炭素14濃度より低いのです。炭素14の量が少ないほど放射性炭素年代は古く見積もられます。海洋生物の放射性炭素年代が実年代よりも古い理由がこれです。
つまり、海洋生物のサンプルをもとに炭素14による年代測定を行えば必ず古い年代が出るのはむしろ当たり前なのです。科学者たちは海洋生物に炭素14法を適用するときには補正を行います。科学者たちは、どのサンプルが炭素14法に適しているか、どのような補正が必要なのかについて大きな注意を払っています。イカのサンプルが古い放射性炭素年代を示すのは予想の範囲内であって、炭素14年代測定法自体が信頼できない理由にはなりません。
(創造論者の主張)西暦1801年にできたハワイの岩石をカリウム=アルゴン法で年代測定を行ったところ、200年前ではなく、1.6億年前という数字がでた。カリウム=アルゴン法は信頼できない。
炭素14の半減期は約5700年です。よって炭素14法では数万年前までしかさかのぼれません。進化論者がかつて炭素14法で数万年を超える年代測定を行ったことはありません。数千万年前や数億年前という化石の年代はもっと半減期の長い元素による年代測定法が利用されています。
カリウム40の半減期は12.5億年ですので、地質学的な年代測定に利用できます。カリウム40は壊変してアルゴン40に変化します。岩石に含まれるカリウムの量と比較してアルゴンの量が多いほど、古い岩石ということになります。これがカリウム=アルゴン法による年代測定の原理です。放射性同位体による年代測定には初期値の推定の問題がありますが、カリウム=アルゴン法の利点は、アルゴンがガスであることを利用して初期値を推定できることです。火成岩が地上に噴出するような場合、脱ガスするために火成岩が固化した時点ではアルゴンは含まれていません。
ただし、この仮定がいつでも正しいとは限りません。例えば、火成岩が噴出してゆっくり冷えるのではなく、海中で急激に冷やされて固まった場合、脱ガスが不十分だったり海中のアルゴンが混入したりすることもあるかもしれません。このことを検証するために、年代がわかっている海中でできた火成岩のサンプルをカリウム=アルゴン法で測定しました。それがよく創造論者によく引用される、西暦1801年にできたハワイの溶岩が1.6億年前の数字を示した研究です。
この研究により、カリウム=アルゴン法は海中で冷却されて固まった玄武岩の年代測定として適していないことが示されました。その理由も急速な冷却にあると、すでにわかっています。適切なサンプルに使用すればカリウム=アルゴン法が信頼に値することは、ウラン系列を利用した年代測定や、古典的な層序列による相対的年代測定法とのクロスチェックによって確認されています。創造論者の持ち出すカリウム=アルゴン法の異常値は、カリウム=アルゴン法を適切に使用するための研究が文脈を無視して引用されているだけなのです。
創造論者の手段
以上、創造論者がよく引き合いにだす放射性同位体による年代測定の異常値が説明可能なことを示しました。これらの説明は秘密でもなんでもなく、引用元には必ず説明がなされているはずです。しかし、創造論者はその部分は引用しません。ここに、不完全な引用が見られます。創造論者の目的が、読者に正しい情報を伝えて判断させることではなく、進化論の時間のスケールは怪しいと思わせればそれでよいことにあるのが見てとれます。異常値の説明まで引用してしまうと、読者が正しい判断をしてしまうので、あえて伏せているのです。最初に不完全な引用をされてしまうと、引用の引用によって、あとは異常値だけが一人歩きします。
(妥当な説明がなされている)異常値をかき集めて、それゆえに測定法全体が信頼できないと結論してよいのならば、年代測定に限らずあらゆる測定法が信頼できないことを示すことが可能です。どのような測定法でも不適切な使い方では異常値が出るものです。放射性同位体による年代測定の信頼性を突き崩すという困難な課題に直面した創造科学者の戦略がいったいどのようなものか、「生命の起源 科学と非科学のあいだ」の著者のシャピロは次のように喩えています。
たとえば同じくらい理屈に合わない課題、たとえば第二次世界大戦において日本はアメリカに勝ったことを示せという課題を与えられたとしてみよう。どうやったらよいだろうか。まず私たちはアメリカ勝利の毎日の報道が詳しく載っている『ニューヨーク・タイムズ』のような新聞の信用を崩すことをやらねばならないだろう。私たちはまず『ニューヨーク・タイムズ』紙の誤植と、前報の誤りを撤回している訂正の例をかき集めたらよいかもしれない。それから、いい加減な予言の一覧表、経済学者やプロボクサーや選挙参謀の楽観視が『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されて、当たらなかったものを集める。そこでこれらの例を全部合わせて、『ニューヨーク・タイムズ』は歴史資料としておよそ何の価値もなかったと結論する。
それから次には「真の」情報を載せた代わりのニュースレターをだし、出版元には「日本勝利研究所」というような、響きのよい名前をつける。その中では真珠湾攻撃の写真、すぐにも勝利がおとずれると報道していた戦時中の日本のラジオ放送の写し、またアメリカ合衆国での日本製の車や日本料理店の普及を報道する現在のニュースを載せる。最後にまた、この観点は公立学校の歴史授業で教えられている通常の観点と、同じ時間数を与えて教えられるべきであると要求する。この努力が凱歌を奏するとは思いがたいが、しかしどんな混乱をまきおこすか、おもしろい見物であろう。このようなのが、創造主義が選んだ領域でとってきた戦略なのだ。(シャピロ 1988 P299)
ただ誤植をかき集めただけでは新聞の信頼性をおとしめることができないように、ただ異常値をかき集めただけでは測定法の信頼性をおとしめることはできません。これまでに何千回、何万回も年代測定はなされてきています。もし放射性同位体による年代測定が信頼できないものであるならば、これまで複数の方法を使い、多くの研究室において、異なったサンプルで行われた年代測定が、いずれも一致して地球の年齢を46億年と見積もるのはいったいなぜなのでしょうか?創造論者は説明をつけられません。