珊瑚礁は地球の歴史6千年以上説の証拠になっているか?に答える

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若い地球の創造論者は、サンゴ礁の形成について、現実の証拠と合致する説明を持っていない。にも関わらず、サンゴ礁が長時間かけてできたという可能性について考慮しないのは、はじめからサンゴ礁は短時間でできたという結論があるからである。科学は証拠から結論を導くプロセスであり、どのような証拠によっても結論が変わらないのであれば、それは科学ではなく、ドグマ(宗教上の教義)である。

地球の歴史が6000年以上であるのは、ダーウィンを待つまでもなく19世紀の中ごろには周知の事実でした。Yahoo!の掲示板で創造論者(正確には創造「科学」支持者)と議論するにあたって、地球の歴史が6000年以上である証拠の一つとして、サンゴ礁を挙げました。他にも挙げようと思えばいくらでもあるのですが、直感的にわかりやすいことに加え、ダーウィンが提唱した説だったからです。

まずその創造論者が、サンゴ礁を形成する説として沈降説を知らなかったということに驚きました。ダーウィンが提唱したこともあって、それなりに有名なはずなのですが。一般人ならともかく、現代科学を否定するようなWebページを立ち上げてるのなら、自分が批判しているものについて少しは勉強すべきでしょう。

それはともかくとして、エニウェトク環礁の石灰岩層が1200mもあることを示すと、それを説明する理論をでっちあげてくれました。その理論そのものは考慮の対象にもならないものですが、典型的な疑似科学の特徴を示しているのでここで引用します。まず高速成長説を否定するまではまともです。

常識的に考えてみて、このような珊瑚礁がノアの洪水(4000年前の話)後になって発生して現在までかかって徐々に大きくなったと考えるのは難しいでしょう。また洪水前の世界の珊瑚の増殖は今日よりも桁違いに速かったという仮説を立てたとしても、珊瑚は海面下の太陽光線の届く範囲でしか成長しないという事実、また、ノアの洪水以前に海面や土地が1000m以上も急速に隆起沈降するような天変地異がなかったであろう事を考えるならば、やはり洪水前高速成長説は説得力がありません。創造論を再評価する 地球の歴史が一万年以上もないと見られる証拠 より)

実は議論に先立ってサンゴ礁問題に関して英文サイトでの情報を集めていました。海外の創造論者には高速成長説の方が好まれているようです。もちろん、高速成長説を支持する証拠はありません。高速成長説に対する反論もちゃんと準備していたのですが、不用になりました。(海外の創造論者にとってもサンゴ礁問題は難問のようで、創造論者対進化論者のディベートでサンゴ礁の話題が出ると、さりげなく話題をずらすようすがおもしろかった。)

かの創造論者は石灰岩がサンゴ由来ではないことをほのめかします。

珊瑚礁をボーリングして火山岩層に達するまでの石灰岩層の内、珊瑚虫の生物活動で堆積されたカルシウム基質の部分は海面に近い所だけで、それ以下の層は実は珊瑚虫由来ではないという仮説は簡単に調べられる筈です。珊瑚は年輪のような溝を作るはずですから、それを調べるなら、ボーリングされたライムストーンはどこからどこまでが生物由来でどこまでが非生物による生成であるか区別する事は難しい事ではないでしょう。そのデータを提示しないで珊瑚礁が全部珊瑚によって作られたと主張するのは論理の飛躍であり、ましてその上に地盤の沈下を主張する事は出来ないはずです。それが出来るのは、創造論否定論者が先走った証拠と言えます。創造論を再評価する 地球の歴史が一万年以上もないと見られる証拠 より)

ここで、疑似科学の特徴である、他者(特に専門家)の過小評価、及び立証責任の転嫁がみられます。ある自称摂食障害の専門家は、自分だけが日本でただ一人摂食障害を治すことができ、他の精神科医は誰一人として摂食障害を治すことはできないのだと主張しました。アインシュタインの相対性理論の反対者は、物理学者はみな愚かであるとみなしています。

この創造論者も同様です。「ボーリングされたライムストーンはどこからどこまでが生物由来でどこまでが非生物による生成であるか区別する事は難しい事ではない。」確かにそうでしょう。ボーリングを行った複数の専門家はすべて、境界線を見落としたのでしょうか。ボーリングで得られた貴重なサンプルをよく見もせず、放り投げて捨てたとでも思っているのでしょうか。つい最近まで沈降説の存在すら知らなかった人物が、自分の想像だけでサンゴ礁の専門家がみな愚かであるかのようにみなすとは、いったい何様のつもりなのでしょう。専門家が間違えないわけではありませんが、すべての専門家が間違えていると主張するならば、それなりの根拠が必要です。

立証責任の転嫁も疑似科学の特徴です。一番多いパターンが「ESP(超能力)がないことを証明してみせろ」です。なにかの存在を主張する方に立証責任があるのです。この場合、生物由来と非生物由来の石灰岩の境界線の存在を示す責任があるのは創造論者の方です。自分は一歩も動かずに「境界線があるはずだ。見落としてんだよ」と述べるのはさぞ楽でしょう。

立証責任が創造論者の側にあることを指摘すると、「私は掘った人ではありませんので無理な注文です」というお答えでした。普通は立証できないのなら主張を引っ込めるものです。「専門誌の記事に書いてあるかどうか調べたらよいと思います。手に入ればの話ですが。」とのことでしたので、論文を手に入れました。本来ならば、論文を手に入れて境界線がどこにあるのかを示さなければならないのは創造論者の方なのですが。

手に入れたのは、Ladd,H.SらのDeep Drilling on Midway Atollという1970年の論文です。ボーリングを行った場所、方法、装備、人について詳しい説明があった後に、それぞれの深さについてのサンプルを写真入りで明示してます。それぞれ説明がついており、その構造も良く分かります。サンゴ以外に、貝の化石が混じっているものもありました。なるほど、生物由来か非生物による生成であるか区別する事は難しい事でありませんね

高速成長ではないとすれば、いったいどうやって石灰岩ができたのか、かの創造論者は火山に原因を求めます。(念のため、以下の主張は私がLaddの論文を提示する前になされたものです。)

その説明として現状の限られた知識の中での最ももっともらしい説明は、このような珊瑚礁と言われる石灰岩の堆積物は地殻内部からマグマと一緒に吹き出した大量のカルシウムと炭酸ガスが過激に沈澱したものではないかと考えるものです。その根拠として、現在いわゆる珊瑚礁と言われるものは、殆どが南太平洋で点在する火山島とか、海溝のそばなど、慨して太平洋の環火山帯と言われる地域に沿って存在しています。そこが非創造論者の言うように海底地盤が沈降している場所であるのかどうかは珊瑚礁の分布が海溝の両側に存在するような場合は説得力が失われます。従って本当に沈降しているかどうかは珊瑚礁の憶測に頼らず別法で確認される必要があるはずです。ノアの洪水の天変地異の際に地殻が割れて大陸が高速で移動し世界の各地で激烈な地殻変動が起こった時に、このような場所に大量の炭酸カルシウム塩がライムストーンとして急速沈澱したものと考えるのです。珊瑚礁のライムストーンがいきなり火山岩の上に乗っていたというボーリング調査の結果もかえってはからずも急速沈殿説を支持するでしょう。ノアの洪水のカタストロフィのほとぼりが冷めた後にこのようなライムストーンの海底山の太陽光線の届く所に珊瑚が繁殖を始めて、屋上を飾るように珊瑚虫由来の炭酸カルシウム塩の層を継ぎ足して行ったのではないかという訳です。創造論を再評価する 地球の歴史が一万年以上もないと見られる証拠 より)

ここでの高次の間違いは、無知に由来するこじつけ、及び都合の悪い指摘の無視です。無知に由来するこじつけの代表はヴェリコフスキーの「衝突する宇宙」でしょう。要約すると巨大な彗星が木星から飛び出し、地球の自転を止めたり元に戻したりしたあと、金星になったという、疑似科学の古典です。ヴェリコフスキーは天体力学について無知であったので、そのようなことが起こり得ないことがわからなかったのです。

大量の炭酸カルシウム塩の沈澱も同様です。現在、そのような沈澱は観測できません。どのような反応が起こるのか化学式すら示していません。カルシウムは二酸化炭素と反応しうる状態で含まれているのか?現在火山から石灰岩ができつつある現象を観察できないのはいったいなぜのか?質問しましたが、答えてくれませんでした。

また、この説の欠点について指摘しましたが、その指摘は無視されました。例えば、沈殿の反応はてっぺんが海上にあるなしにかかわらず、火口、すなわち海中で起こるはずなので、1200mもの石灰岩を排出しながらちょうど海面ぎりぎりでピタリと止まった理由が説明できないと指摘しました。Webページの主張を見ると、そのような指摘がまるでなかったかのようです。

他者(特に専門家)の過小評価立証責任の転嫁無知に由来するこじつけ都合の悪い指摘の無視という疑似科学の特徴についてあげましたが、最大の間違いは、証拠から結論を導くのではなく、結論がまずありきで、それに合う証拠をでっちあげるという態度でしょう。とにかく証拠がどうであろうと地球の歴史が6000年であるという結論が揺らぐことはありません。

創造科学は神がこの世界を創られた事を前提としています。(中略)手近に得られる事象や現象の観察から始まって順序よく神が創られたのである事を確認して行くのがその手順です。また単に神が創られたという事を確認するというのがこの創造科学の考察のゴールではなく、神がどのようにして創られたのかを学ぶのが次のプロセスです。創造論を再評価する 創造科学のパラダイム より)

神がどのようにして創られたのかを学ぶといっても、神が6000年前ではなく、例えば6万年前に地球を作ったという可能性は考えていないようです。証拠の有無は関係ないようですね。科学とは証拠から結論を導くプロセスのことです。よく言われる「進化論は神の不在を前提としている」という批判は間違いです。種の起源を読めば、ダーウィンが主による創造を否定していないことはよくわかります。神がどのようにして世界を創られたのか、当時の科学者が証拠に基づいて理解しようとした結果が進化論なのです。

ある人は、創造科学は神が創ったという結論に合わせるために勝手に構築した疑似科学ではないかと批判していますが、それはポイントを得た批判では全くありません。なぜなら神が創ったというのは結論以前の前提であり、それに対して神の存在を否定すること自体が人為的だからです。創造論を再評価する 創造科学のパラダイム より)

科学は神の存在を否定していません。神がいるかどうかという問題は、科学で扱える範囲の外にあります。神の不在を前提にした科学がないように、神の存在を前提にした科学というものはありません。創造「科学」は科学ではなく別のものです。

どんなに説明上不利であるように見えても、創世記の記述に一致した説明をあくまで求め、必ず解答があると信じて研究を続けるのが創造科学の趣旨です。創造論を再評価する 創造科学のパラダイム より)

この一文だけからでも創造「科学」がドグマ(宗教上の教義)であって、科学ではないことがよく分かります。どれだけ大量の証拠があったとしても、創造「科学」者が自説を撤回することはないと、自分で宣言しています。かの創造論者によれば「進化論は単なる神を信じたくない人のこじつけ言い逃れ説に過ぎない」そうですが、 進化論は証拠に基づいた科学的仮説です。進化論に反する証拠がそろい、進化論よりもうまくこの世の現象を説明できる仮説が登場すれば、科学者はみな進化論を喜んで捨てるでしょう。

むしろ創造「科学」の方が、「自分の信仰に科学的根拠があると信じたい人のこじつけ言い逃れ説に過ぎない」のです。ドグマを科学であるかのように主張するから批判されるのであって、信仰であるのならば批判の対象にはなりません。彼らは、自身の信仰を信仰であるとするのは不満なのでしょうか?科学というお墨付きがないと不満なのでしょうか?


参考文献

T.F.ゴロー,N.I.ゴロー,T.J.ゴロー サンゴ礁の科学 日経サイエンス 1979 10月号 P114
マーチン・ガードナー 1989.奇妙な論理 騙されやすさの研究 社会思想社
高橋達朗 1988.サンゴ礁 古今書院 
Ladd,H.S., Tracey,J.I., Gross,M.G. ,Deep Drilling on Midway Atoll, Geological survey professional paper 680-A P20,1970

Webサイト
創造論を再評価する http://members.xoom.com/norih/earth.htm

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2000/02/23
2004/08/26最終改訂